10年落ちのVWポロ

VWポロは、VWのラインナップの中でゴルフの一つ下、ルポの一つ上のレンジを担う小型車です。
現行モデルは4代目ですが、日本に導入されたポロとしては3代目。
実質、人気が出たのは先代からなので導入2代目といっても差し支えなさそうですが。
そんな現行ポロは先日ビッグマイナーチェンジを受けて
ゴルフVと似たイメージの外見に改められましたが、
今回はその新型ではなく1996年に日本上陸を果たした先代(3代目)ポロの話。


私の友人は先代ポロ後期型のGTIに乗っています。
125psを発生する1.6リッターエンジンに5MTを組み合わせたホットハッチです。
で、そのポロGTIを点検のためにディーラーに預けたところ、代車としてやってきたのは
先代ポロ初期型の4ドア*1。オーソドクスな5ドアハッチバックボディに
たった75psしか発生しない1.6リッターエンジンを搭載し4ATを組み合わせた実用コンパクトカーです。
実は、我が家でも先代ポロを発売開始同時と共に購入し乗っていた事があるので、
先代ポロの初期型というのは結構思い入れがある車です。
そういうわけで、友人にお願いして代車の又貸しをしてもらってちょっと乗り回してみました。


代車のポロは鮮やかな朱色のフラッシュレッドに塗られた4ドア。
日本導入初期のポロのラインナップは4ドアのAT、2ドアのAT、そして2ドアのMTという3種でした。
4ドアのATが一番人気があったような気がします。
ウチで乗っていたのもシャガールブルーの4ドアATでした。
ドアを開けて乗り込むと、懐かしい景色が広がります。
洒落っ気など皆無の、ただひたすらプラスチックで構成された実用一点張りのインテリア。
後期型では一変してスタイリッシュなインパネを採用していますが、
先代前期型ポロのインテリアは無骨で可愛らしさのない、男らしいもの。
でも、元々ポロは実用コンパクトカーなのですから、
インテリアデザインなど洒落ている必要は無いのです。もちろん機能性は抜群。
ステアリングは当時のVW汎用の4本スポーク。
ただしオプションの本革巻きステアリングが装着されていました。
しかし表面は磨り減ってテカテカ、一部は擦り切れてしまっています。
オドメーターを見ると、走行距離は10万km。これでは擦り切れるのもやむなしか(笑)
全長3715mm、全幅1660mm、全高1435mmのボディは現行のコンパクトカーより更に小さいものですが
全体的にアップライトな着座位置のおかげで室内空間は十分な広さ。
かつて我が家にポロがあった頃、私は小学校の高学年だったので
当然ながら室内空間に不満を感じることはありませんでしたが、
あれから10年近くが経って成長した私が乗っても全く不満のない空間があるのには感心しました。
しっかりしたシートも美点で、フロントシートはコシのある座り心地で
身体をしっかり預けることができますし、リアシートは大型のヘッドレストを装備していて
クッションや背もたれの感触も適切なおかげで実に快適。
10万kmを走っているのにヘタっているような感じではなく、
10年近く前に乗ったあのポロと同じ座り心地に感じました。


いざ走り出してみると、まず低速域のトルクが豊かな事に感心しました。
1.6リッターのSOHC直4エンジンは75ps/4800rpm、13.8kgm/2800rpmと
排気量を考えればむしろ物足りなさを感じるくらいのスペックですが、
実際に乗ると街乗りで重要な低〜中回転のトルクが充実していて、
ちょっとした幹線道路の流れに乗せるのも全く苦になりません。
全開加速だとさすがに物足りなさを感じますが、
中速域から少しだけアクセルを踏んで加速するような場合には非常にトルクのツキがよく、
全くストレス無く気持ちのいい加速感を味わえます。
これはエンジンの特性もさることながら4ドアで1050kgというボディの軽量さが効いていると思います。
現行ポロにはちょっとだけ試乗したことがあるのですが、現行は排気量が1.4リッターに縮小され
最大トルクが低下すると共にその発生回転数も引き上げられ、
さらにボディ重量が100kg増加しているために加速時にはかなりかったるい印象を受けました。
コンパクトカーらしい、活発でキビキビした走りが味わえるという点では
先代ポロの方が明らかに勝っているように思います。
そういえば、我が家のポロも、街中ではかなり活発に走っていたことを思い出しました。
ボディは現行のコンパクトカーよりも小さいので取り回しはかなり楽。
ボンネットはスラントしているので運転席からの視界には入りませんが、
絶対的に小さいからあまり気にする必要もなし。
ボディの剛性感も大したものです。10万kmを走っているとは思えないほど
ビシッとしていて、軋み音が出たり不快な振動が伝わったりする事もありませんでした。
足回りは、さすがにダンパーがややヘタっている感じでしたが、
ある程度スピードを出しても全くふらついたりせず地面に吸い付くような感覚はさすが。
インフォメーションが豊かでパワーアシストの量も適切なステアリングフィールと相まって
ワインディングロードでも抜群の安心感。もちろん街乗りでの乗り心地は十分快適でした。
好印象のエンジンや足回りに比べてブレーキはこれといった印象なし。
初期の食いつきがやや甘かったのとペダルに剛性感がないのが気になりましたが、
多分パッドを換えてやれば良くなるはず。
あと、駆動系はさすがにヤレが来ているらしく、ATのシフトショックは大きめで
ごく低速域では細かい振動も出るようになっていました。
ATセレクターレバーの節度感も今ひとつで、目的のポジションをオーバーランする事も。
これはポロの問題というより代車の個体そのものの問題ですね。
ポロそのものの問題という点ではペダルレイアウトの違和感が挙げられます。
もともと左ハンドルの国で作った車なためか、右ハンドル仕様では
ホイールハウスとの干渉を避けるためにペダル類が全般的に左にオフセットしています。
さすがにブレーキとアクセルの踏み間違いはありませんでしたが、
最初はアクセルとブレーキを同時に踏みそうになってちょっと困りました。
意図的に足を左側に寄せるように操作した方がいいかも知れません。
数分乗れば慣れるといえば慣れますが。


いずれにしても、ややこもるような独特の排気音や活発な走り、
しっかりしたボディや足回りなど、かつて我が家にあったポロの事を思い出しました。
乗っていて妙に安心感の高い車だったこと。
10年近く前はポロの助手席や後部座席に、今日は運転席に座ったわけですが、
座る座席が変わってもあの頃感じた安心感はそのままでした。
その安心感は、先代ポロが実用コンパクトカーとして
とても真面目に造られているところから来ているように感じました。
今どきの国産コンパクトカーだって、トータルで車としての出来を考えると
もしかしたら先代ポロには及ばないかもしれません。
何より、新車のときに感じたことを10万km走った後でもそのまま感じられるというのがすごいです。
実用車とはかくあるべし。10年近く前の車にここまで感心させられるとは思いませんでした。
友人など、GTIの他にもう一台このポロが欲しいなどと言い出す始末。ポロマニアかい(笑)


乗せてもらったついでに、友人のポロGTIを引き取りにいく事になり、
私もそのまま一緒に代車ポロに乗ってディーラーに行くことになりました。
ショールームには、ビッグマイナーチェンジを果たしたばかりの現行ポロが展示されていました。
現行ポロは内外装のクオリティがかなり高く、特にインテリアは先代初期型から比べると
完全にワンランク上の印象。ATセレクター周りにはメッキのパネルが付いてるし、
全体的なデザインも洗練されているし、プラスチックそのものの質も良くなっているようです。
エクステリアもプチゴルフといった印象。かなり立派な車になっています。
でも、個人的にはそんな新型ポロには魅力を感じませんでした。
ひねくれた感想かも知れませんが、新型ポロは豪華になりすぎたように感じます。
あくまでもポロは実用コンパクトカーなのだから、別に豪華である必要も
インテリアデザインが洗練されている必要もないと思うのです。
だから、個人的には先代ポロのコンパクトカーらしい質実剛健な雰囲気が気に入っているのです。
愛着を持ちやすく、親しみやすい、いい意味での日用品らしさ、道具らしさ。
実際に乗れば何ら過不足はないし、実用車としては先代初期型の方がはるかに健全に感じてしまいます。
新型ポロの姿は、代を追うごとに肥大化して豪華路線を歩み
もはや実用コンパクトカーではなくなってしまったゴルフの姿に重なって見えてしまう…。


そんなわけで、久々に先代初期型ポロに乗って懐かしかったのと、
そのポロが10年近く前に小学生の自分が感じた以上にいい車だったことと、
現行ポロにどことない違和感を感じたのとが混ざって何となく複雑な気分でした。

*1:VWは5ドアや3ドアという呼び方はしない