前面展望特急の落とし穴?

列車の運転席のすぐ後ろに立ち、運転台越しに前方の視界を楽しむ。
男性なら、子供の頃に一度くらいはやった事がある人が大半ではないでしょうか。*1
もちろん大人になってもやっている人も少なくないはず。例えば私とか(ぉ
さて、電車や気動車であれば、たいていの場合は普通列車でも
前方を見通すのは可能ですが、そういう列車の場合、前面の窓の面積が小さく
眺望という面では今ひとつの場合が多いです。また、座席がないケースがほとんど。
特急列車では、これを正式なサービスにするために先頭車の形状を大きな窓を持つパノラマ型にし、
たいていの場合はグリーン車扱いなのでゆったりとしたシートに座って
前面展望を心行くまで楽しめるようにしている列車が増えました。
展望車というだけなら国鉄時代の客車にもあったので、区別のために前面展望車と呼ぶことにします。
例えば「しなの」とか、「オーシャンアロー」とか、「スーパービュー踊り子」とか。
とにかく、前面展望というのは魅力的なわけです。
横の窓を流れていく景色だけを眺めるよりも断然視界が広い方が気分がいいし、
線路の先に何があるのかを見通すのも実に楽しい。
子供にとっては運転士気分にもなれるという、
鉄道という日常の乗り物の中で非日常が楽しめる空間、それが前面展望車だと思います。


ところで、そういう前面展望車の構成は、普通の列車と同じように最前部に運転台があり、
その後ろの客室との仕切りを大きなガラスにして運転台越しに展望を楽しむというものが大半。
無論これでも十分に爽快で楽しいのですが、それでも運転台が邪魔で見えにくいところがあったり、
運転士にとっても総ガラス張りの部屋で仕事をするようなものなので夏場は暑いといった難点も。
そんなわけでかどうかは知りませんが、運転室と客室の階層を分けた車両もあります。
日本で代表的なのは名鉄のパノラマシリーズと小田急ロマンスカーシリーズ。
名鉄には1階を運転席、2階を客室にした車両「パノラマスーパー」もありますが、
1961年に登場した元祖国産前面展望車「パノラマカー」は1階が客室、2階に運転室を設置した構造。
つまり、乗客が乗る展望スペースは普通の列車の運転台がある場所、一番前なのです。
ほぼ同時期に出た小田急ロマンスカー「NSE」型も同じ構成。
この構造は、客室の前方には何も視界を遮るものがなく、まさしくパノラミックな世界が広がるのです。
私は小田急ロマンスカーの展望席に何度か乗ったことがありますが、あの眺望はやはり感動的です。
パノラマスーパーのように高い位置に客室があるタイプも悪くはないのですが、
やはりレールから近い位置にあるほうが雰囲気も出るというもの。
名鉄パノラマカーだけでこの構造をやめてしまいましたが、
小田急は今でもこの構造のロマンスカーを新造・運行しており、
昨年には新型の「VSE」がデビューしました。


さて、このタイプの前面展望車を運行するにあたり、問題になったのは安全性です。
普通の列車ならクラッシャブルゾーンになる運転台がある位置に客を乗せるわけですから、
それ相応の対策が必要というわけで、名鉄パノラマカーのノーズには
「ダンプキラー」と呼ばれる緩衝器が収められているとか。
小田急もやはりそれなりの対策をしているはずです。
…が。車との衝突に対してはともかく、
相手が人だとかえって対策が困難なのかもしれません。
昨夜のこの事故の話を聞いて、前面展望というのも考え物かもしれない、と思ってしまいました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060216-00000235-kyodo-soci

ガラス割れ乗客9人軽傷 ロマンスカーで飛び込み

 16日午後6時20分ごろ、神奈川県相模原市南台3丁目にある小田急小田原線小田急相模原駅を通過中の新宿発箱根湯本行き特急はこね43号(11両編成)に男性が飛び込み死亡、割れたガラスで乗客の男女9人が腕を切るなどの軽傷を負った。
 相模原南署は男性は自殺の可能性が高いとみて身元の確認をしている。
 調べでは、男性は駅のホームから、1両目に飛び込みフロントガラスに衝突。割れたガラスが車内に飛び散り、乗客がけがをした。
 特急は先頭車両の運転席が客席上部にあり、客室が展望席となっているロマンスカータイプ。男性は客席正面のフロントガラスにぶつかった。
共同通信) - 2月16日21時8分更新

ニュース映像を見たのですが、7000形「LSE」の展望席のガラスに大きな穴があき、
車内にはおびただしい流血の痕が…。
ガラスが割れて怪我をしたというのも気の毒なのですが、何が一番気の毒かって
人が飛び込んでくる瞬間をモロに生で目撃しちゃったことです。
これ、トラウマにならないかなぁ…。車が相手の方がまだマシだったんじゃないかと。
実は私もかつて2回ほど、前面展望ができる列車に乗っているときに人が列車の直前を横切って
背筋が凍るような思いをしたことがあります。
その時も「前面展望車は人身事故のときは悲惨だな」と思ったものですが、それが現実のものになろうとは…。
JR九州の「白いかもめ」こと885系は、非常ブレーキをかけると
運転台と客室の仕切りのガラスが一瞬で曇りガラスになり
「惨事」を直接見ないで済むようになっていると聞いたことがありますが、
展望車のガラスもそうした方がいいんじゃないかと…。
あ、でも今回は割れちゃったから関係ないか…。


普段見えない世界を見る事は、見なくてもいいものまで見てしまうリスクを背負う事なんでしょうかね(ぉ

*1:客車列車では物理的に不可能ですが…。